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知っておきたい昆虫採集のマナー

近年、大型昆虫イベントや大衆雑誌で昆虫が紹介されたりなど、大人の趣味としての昆虫採集や収集、飼育が広く受け入れられるようになりました。その中には今まで興味なかった人も新しい趣味として昆虫を始めてみようという人もいるかと思います。

そんな方にぜひ知っておいていただきたい知識が昆虫採集でのマナーです。これは決して初心者がマナー違反をしているということではありません。昆虫採集をする上で、マナー違反者と遭遇する確率は低くありません。筆者も実際にマナー違反者と遭遇したり、逆に自分が知らずのうちにマナー違反者になってしまったこともありました。そのような時にどう対応すれば良いかを解説します。

はじめに

これから紹介するマナーはどこかの団体や組織が決めた公式ルールなどではなく、昆虫を趣味にする人々の共通認識であり、これに反論する方々も一定数いることがあります。あくまで過半数以上での大衆の認識と受け取っていただければ幸いです。法律に反しない限り、昆虫採集は基本的に自由に行えるものですが、皆が気持ちよく楽しむために一人ひとりがマナーに意識を向けることで昆虫をより良い趣味にしていきましょう。



 

 

 

採集でのマナー

 

 

 

ゴミやトラップは必ず持ち帰る

昆虫採集をしているとよく昆虫採集に使用したであろうトラップの残骸やベイトの袋などが放置されています。自然を楽しむ人として最低限のマナーですが、自ら出したゴミは必ず持ち帰りましょう。

 

バナナトラップ

昆虫採集にはトラップを使用ことも多々あります。有名所ではバナナトラップというストッキングに発酵したバナナを入れてカブトムシやクワガタを狙ったトラップがあり、これはよく木にくくりつけたまま放置されることがあります。バナナが熟成し腐敗することでかなりの悪臭を放つので、持ち帰るのに嫌厭される方がいるのです。このトラップを放置してしまうと昆虫がストッキングに絡まって死んでしまったり、木に負荷がかかることがあります。設置したバナナトラップは自宅で処理しましょう。

 

ピットフォールトラップ

PT(ピットフォールトラップ)という地中に穴の空いたプラスチックカップを埋めた採集方法があり、翅を持たない地表を徘徊する昆虫を狙った採集方法があります。これもよく放置されたカップがあり、中には抜け出せなくなった昆虫がびっしり詰まっていることがあります。PTを仕掛けた際はカップ数と場所をメモアプリや地図アプリでしっかりと記録するようにしましょう。

 

 

 

環境をできる限り壊さない

昆虫採集をするうえで、環境を破壊しないというのはかなり難しいです。森や草むらを歩くだけで少なからず植物や生物を踏んでしまったりもします。しかし知識を保有することで意識的に破壊する行為を抑制することはできます。

 

ウロを壊さない

コクワガタやオオクワガタなどの種類は木のウロ(洞)に身を隠していることがあります。それを狙いに採集する人も多いのですが、そのウロはクワガタの大切な隠れ家であり、決して多くありません。採集したクワガタが抜けたウロに新しいクワガタが入ってくることもしばしばあります。その大切なウロを採りにくいからと破壊して採集する行為はご法度とされているので絶対にやめましょう。真のクワガタ採集家は何時間もクワガタがウロからでるのを待ち続けます。

 

材を破壊しすぎない

オサムシやクワガタなどの越冬個体を採集する際に、材割りという朽木を壊して中に入っている昆虫を採集する方法があります。この材を過度に破壊しすぎてしまうと次に生まれた昆虫が越冬する場所がなくなってしまい、その環境から減ってしまう恐れがあります。越冬個体は材の端っこの部分に集中するので、それほど広範囲に破壊しなくても充分採集することができます。来年以降のためにも材を崩す際は最小限に留めましょう。

 

 

 

通行人の邪魔をしない

昆虫採集を行う際は、通行人の迷惑のかからないようにしましょう。公園や登山道などでは特に注意が必要であり、過度な採集行為が採集禁止区域を広げて昆虫採集ができなくなってしまうことも多くあります。

 

登山者の邪魔にならないようにする

昆虫採集が禁止されていない山や森でも登山者から見えない位置で採集やトラップ設置をするようにしましょう。登山者は山の景観を楽しむために来ているので、材割の後やトラップが設置されていたりすると気分を悪くされる方もいらっしゃいます。山や森を楽しむの趣味は多くあるため、お互いに配慮し合うことが大切です。

 

採集場所を確認する

採集する場所が採集禁止の場所ではないか、確認する必要があります。その中でも特別保護地区では無許可による昆虫採集は禁止されています。北海道で例えをあげると、羊蹄山、樽前山、利尻山、大雪山系、日高山系などなど、有名どころの山が多くありますので、本格的に採集する前にはその地域が特別保護地区に指定されていないか確認しましょう。また、特別保護地区ではなくとも条例などで、保護されている場所もあるので、都道府県のHPで確認して置くことも大切です。昆虫採集の禁止はされていなくても、植物の保護が対象になっている場合などがあるので、注意が必要です。

 

敷地内ではないか確認する

当然のことですが、私有地に無断で入ることは控えましょう。管理されている森や林道の場合、立ち入り禁止の看板が建てられていることが多いです。ダイコクコガネなどの牧場に生息する昆虫を採集したい際はしっかりと許可を得てから敷地内に入れてもらいましょう。

 

危険な場所には行かない

自然はいつ何があるかわかりません。ヒグマに遭遇したり、鉄砲水や落石の危険がある箇所には近づかないようにしましょう。人通りがほとんどないような箇所で採集する際や、登山が必要な採集の際はできるだけ単独行動は避けましょう。どうしても一人で行かなくてはならない際は、事前に家族などに行く先と戻る時間を伝えておきましょう。また、長竿と呼ばれる長い虫網を取り扱う際は電線がない場所で取り扱いましょう。時々感電してしまい不幸な事故に見舞われる方がいらっしゃいます。

 

同業者がいれば遠慮する

クワガタやカブトムシを狙う街灯周りの採集はバッティングしやすく、先に来ていた人がいなくなってから採集を行いましょう。また、ピットフォールトラップもバッティングしやすく、他人のかけてあるカップがあれば、そこのポイントは諦めて別の場所で行いましょう。場所とりは基本的に早い者勝ちです。昆虫採集において場所とりはとても重要になるため、揉める原因になりやすいです。有名なポイントでは、できるだけ早く現地に向かい場所とりをしておくと良いでしょう。

 

標本にする際は採集記録を残す

採集した昆虫を標本にする際には必ずラベルという採集データを記入します。特に必須要件は採集した場所と日付です。この記録はその場所に確かに生息していたという学術的価値をもたせることができます。もっと言ってしまえば、ラベルのない昆虫標本はただの死骸とまで言われるほどです。昆虫を生息していた環境から持ち帰る行為の責任としてもラベルに情報に残すことは大切です。ラベルに入れるデータは他にも採集者名や種類名などがあればなお良いでしょう。

 

採集禁止種を確認する

昆虫によっては国の天然記念物であるため採集を禁止されている種類もいます。しかし日本ではそれほど多くの種類は設定されておらず、有名どころだと、北海道に生息するウスバキチョウや、沖縄に生息するヤンバルテナガコガネなどがいます。さらに種の保存法に指定されている昆虫も原則、採集や販売が禁止されているので、チェックしておきましょう。種の保存法では大部分が沖縄などの南の島に生息している昆虫が多いです。特にマルバネクワガタは非常に人気が高いため規制が厳しくなっている傾向にあります。

 

 

飼育でのマナー

昆虫を趣味にする人でも昆虫採集はせずに、ブリードに専念する人もいます。特にフィールドにでるわけではないので、それほどマナーは多くありませんが、飼育者としての責任など管理者としてのマナーが必要になります。

 

放虫しない

飼いきれなくなってしまった昆虫を逃してしまう行為を放虫といいます。一度飼い始めた昆虫は最後まで責任を持って飼育しましょう。SNSでは時々、大都会に外国産のクワガタやカブトムシが発見されることがあります。国内の生態系にも大きく影響してしまう危険があるので、昆虫の脱走などにも注意が必要です。
国内で採集した昆虫であっても可哀想だからと逃してしまうとその地域独自の生態系を壊してしまう危険性があります。実際に北海道でも元々生息していなかったカブトムシが大繁殖してしまっている事例があります。これにはいくつか推測があるのですが、ホームセンターなどのショップで売れ残ったカブトムシを放ったことが原因であるという説もあります。他にも国内外来種として徐々に生態系が崩れつつあるので今後特に注意が必要です。


 

昆虫の死骸処理

飼育していて死んでしまった昆虫を外に捨てる行為や、埋める行為はその飼育していた昆虫に付着していたダニや病気を蔓延させてしまう危険性があります。生態系に負荷を与える行為なのでやめましょう。基本的には可燃ゴミとして廃棄したり、標本にして保存しておいたりなどが望ましいですが、抵抗がある方はペット葬に連絡して対応してくれるか問い合わせしましょう。

 

個体数を管理する

昆虫は一度に多くの産卵を行います。自分が管理できるキャパシティを超えないように調整しましょう。もしも多く産卵しすぎて飼いきれなくなってしまった場合は、SNSで欲しい人を探してみたりしても良いかもしれません。可哀想だからと逃してしまう行為は、飼い主としての責任放棄になるので絶対にやめましょう。

 

 

ネットでのマナー

 

 

 

採集数を自慢しない

昆虫採集で多くの個体を採集できた際に、嬉しくなりついついSNSにアップしたくなる時があるかと思います。しかしSNSは不特定多数に広めることになるため、複数の個体をアップする際は慎重にならなくてはなりません。大量の虫をシメた画像は人によって嫌悪感の対象になります。採集技術が上がるについれて数を簡単に採集できるかもしれませんが、数を多くとったからといって偉いわけでもなければ、採集は勝負事でもないので大量の昆虫をアップするのは極力控えましょう。(例外:外来種駆除として、沢山いたとの報告は意義がある報告です)
特に集団越冬するマイマイカブリは多いと一箇所で100匹以上の個体を採集することができます。一度越冬状態を解除させてしまうと、リリースしたとしても自然界ではほとんどが生き残れません。そのような場合は基本的に全て採集した方が良いかと思いますが、SNSで公表することは控えましょう。
昆虫は研究や記録を残すうえで多くのサンプルが必要になる場合があるので、希少種ではない限り複数採集することが悪いわけではないのですが、その行為に拒否反応がある人が多数派だということは認識しましょう。

 

採集場所の詳細を公開しない

昆虫採集した場所の詳細がわかるような画像や、情報をインターネットに載せるのは控えましょう。不特定多数に共有してしまえば、そのポイントに人が集中してしまい採集圧が加わってしまいます。情報公開は市町村単位までが妥当です。また展示会などで標本についたラベルの画像もできるだけ載せることは控えましょう。今ではスマホで簡単にモザイクもかけることができるので活用しましょう。海外産の標本ラベルはそこまで気にしなくても良いかもしれませんが、国内産だとやはり詳細ラベルを不特定多数に公表することはよくありません。市町村単位までであれば、よっぽどの玄人ではない限りポイントはバレません。

 

採集場所の詳細を聞かない

筆者も時々SNSのダイレクトメッセージでポイントを教えて欲しいとの連絡があるのですが、一切対応できないことをお伝えしています。移動時間やガソリン代をかけてようやく見つけたポイントを簡単に教えることはありません。とても失礼にあたる行為ですので詳細ポイントを聞くのは控えましょう。初めたばかりでどこを探せば良いのかわからないという方の気持ちも痛いほどわかります。そのような方はポイントを直接聞くのではなく、お勧めの図鑑や本を聞いたり、ポイントをどのような判断基準で見つけているかなどを聞くと良いでしょう。虫好きな方は同じ趣味を持つ人と仲良くしたいと思っている人が多いので、そのような情報であれば共有してくれることが多いです。会話を通じて仲良くなると一緒に採集できるケースもあるので、非常に勉強になります。間違ってもファーストコンタクトで採集場所を聞くことはやめましょう。

 

生体販売は慎重に

昆虫をインターネットオークションなどで販売する際も注意が必要です。標本は特に問題になることは少ないのですが、自分が採集した個体であってもワイルドの生体販売は控えた方が良いでしょう。生体販売を行う際は累代飼育で繁殖させた個体であれば問題になることは少ないのですが、やはり野生個体の販売は法律で禁止されていないとはいえ、乱獲する行為に発展するのでマナー違反となるでしょう。その個体を買った人が責任持って飼育してくれるとも限らないので国内外来種に繋がる危険性もあります。いくら採集が上手でもワイルドの生体販売で食っていけるほどの儲けは今の時代ほとんどありません。

 

 

マナー違反に対する対応

 

フィールドでマナー違反者を見かけたら

不幸にもフェールドでマナー違反者に遭遇してしまった場合、基本的に関わらない方が安全でしょう。しかしながら自分もよく行くポイントであったり、正義感から直して欲しいという思いがあると注意したい場合もありますよね。
マナー違反者に注意する際は、冷静に対応しなくてはなりません。荒い口調で注意してもお互いのモラルがぶつかり合うだけで進展しません。とりあえず挨拶がてら「昆虫採集ですか〜?とれました〜?」など笑顔で声をかけましょう。少しお互いになれたら本題に入りましょう。一度言って反論されたり無視されたら治す気がない人であり、これ以上関わり合ってもあなたの時間の無駄になってしまうので、その場を離れましょう。ポイ捨てなどの環境破壊に関わることであればその土地の管轄(市区町村の役所など)に連絡し、看板設置などの対策がとれるか確認しましょう。その場に当人がいないマナー違反(放置トラップ)の場合は、そのゴミを回収しておき、SNSやブログなどで注意喚起の意味でも報告しておくと多少なりとも抑止力になるでしょう。

 

ネット上でマナー違反者を見かけたら

SNSやインターネットでマナー違反者がいても直接個人を批判する行為はよくありません。自分が許し難い行為で納得ができない場合であれば、違反報告として運営に報告して対処しましょう。もしくは個人を批判したりするのではなく、あくまでマナー違反にあたる行為に対してだけ自分の意見を伝えましょう。人格否定や悪口など言っても火に油を注ぐだけであり何も成果を得られません。SNSで議論することは良いことでもあると思うので、事象を明確にし絞ることで質の良い議論になり、共通認識のマナーを広めることができます。

 

自分がマナー違反をしてしまった場合

環境破壊につながる行為であればできる限り現状回復に努めて同じ過ちを犯さないように対策しましょう。また、他人から注意を受けた際は、まずは身近にいる第三者に意見を伺い自分が本当にマナー違反をしたのか確かめるのも良いでしょう。自分でもマナー違反だなと感じた場合は、注意をしてくれた人に対して謝罪や注意をしてくれたことに対するお礼を伝えれば揉めずに話し合いができるでしょう。モラルは人によっても異なりますし、秘匿性の高いネット上では、無意味なマナーや必要のないモラルを押し付けてくる人もいるので、全てに対応する必要はありません。しかしながら自分の認識が間違っていることも多々あるので、意見を聞くことは大切であり、第三者に相談すると自分の意見が間違っていないかの確認作業にもなります。筆者自身も過去に何度がマナーに対する注意をご指摘いただいたことがあり、フィールドにでる際に注意したり、SNSに投稿する画像を気を付けるようにしました。

 

最後に

採集は基本的に法律に触れない限り個人の自由ですが、日本の文化的にもマナーというものは時に、法律と同等に重要視されます。マナーを意識しすぎて昆虫採集が堅苦しくなってしまうのも新しく趣味にしたい人にとってはハードルになってしまうので、他人の迷惑にならない程度に気楽におこなえると良いですね。筆者も割と自由気ままに昆虫採集を行っていますが、時には自分の自由が相手を不自由にしてしまっているかもしれないことも忘れてはいけません。自分だけの自然ではないので、共有の財産としてより良い昆虫ライフを楽しみましょう。

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